林のお店やさん(3)
[平成29年1月21日]
秋から冬にかけて、境内や林で木の実集めを楽しむ子供達。どんぐり、ナンテン(赤)、センリョウ(赤)、マンリョウ(赤)、リュウノヒゲ(青)、ノシラン(黄緑)、ヒノキ(茶)などなど。採集した木の実を使って、お部屋でケーキ作りやクッキー作りが自然に始まり素敵な作品が並ぶようになりました。
「これ、どうしようか?」という担任の問いかけに、「みんなに見せたい!」「持って帰りたい!」「お母さんにあげたい!」そして「お店をやりたい!」という声。ここから林のお店やさんの話し合いが始まったのです。12月のお遊戯会が終わった頃です。
日々の園生活の中で、子供達なりのお店の準備がコツコツと始まりました。どんなお店にしようか。そもそもお店ってどんな風になっているのか。そこで、お正月休みの間に親子でお店の観察をしてきてもらうことになりました。正月明けのクラスでの話し合いでは、看板やカウンター、品物を並べる台、お金、レシートなど、必要なものが子供達の口から次々と挙がってきました。お店の絵を描いて説明してくれる子もいたようです。
ある日の園庭での自由遊びの時間。子供達の間で「とんかつ屋さん」が自然発生的に始まりました。田んぼのタライにできた氷を切り取って砂をまぶして台の上に並べていきます。「外はサクサク、中はとってもジューシーなとんかつですよ!」しばらく観察した担任が買いに行きます。「一つください。」「はい、お金をください。」「いくらですか?」「葉っぱ1枚でいいです。」と、こんな感じのやり取りがあったそうです。葉っぱを探してきてとんかつを1枚買いました。その後も他のお友達が買いに来て商品とお金をやり取りして楽しんでいます。その様子をずっと見守っていた担任が、はたと気付きます。「あ、レジは必要ないんだ。」
実はこれは彼女にとって大きな発見でした。それまで、お店にはレジがつきもので子供はバーコードをピッとやるのが楽しい、と思い込んでいた部分があったのです。もちろんそういう場合もあるでしょう。でもこのとんかつ屋さんの子達は、それがなくても十分にお買い物のやりとりを楽しんでいたのです。このことから、今年の林のお店にはレジを設けず、お金を入れる箱だけを用意する方向に決まりました。冬の自然物を使った自由な制作を子ども達に存分に楽しませ、その制作物を使ったお店やさんの醍醐味をストレートに味わわせる流れになっていったのです。
別の日。お店の場所を決めるために、子供達と林を下見しました。場所を決めたあるグループの女の子が言います。「ここがいい!だってここは日が当たるでしょ!」担任は感動したそうです。子供は自ら考え、日の当たる場所を選んで決めていたのです。冬の林に降り注ぐ木漏れ日は冷えた体を温める重要な要素であると同時に、手作りの商品を輝かせていっそう魅力的に見せる言わば天然のスポットライトでもあります。子どもは本能でそれらのことを総合的に判断し、自ら選択し決断していたのです。
子どもを観察する。子どもの力を信じる。子どもの感覚を大切にする。保育ではこれがとても大切なことです。子どもは一人ひとり皆違いますし、クラス全体の雰囲気や能力、感覚も毎年違います。大人が大人の経験や感覚だけで進めようとすると、それは大人の思い込みを子どもに押し付けることになり、子供は何をしていてもいつも受け身で指示待ちのお客様になってしまいます。
ここに保育の落とし穴があります。行事を進めていく時、大半を大人が考えてお膳立てし、最後の仕上げの単純作業だけを子どもにさせて終了、楽しかったね!ということがありがちです。見た目に華やかで楽しそうで、子供も嬉しそうに参加し大人も満足します。行事が盛り上がれば、保育者は「良い保育をしている」と思い込み、自信満々に「子供達、楽しみながらよくがんばりました!」と宣伝してしまうのです。でもそれは、子どもが自ら主体的に考え、作り出し、工夫し、想像力を腹かせて楽しむ遊びとは全然違います。つまりここには「保育の質」の問題が隠れているのです。
保育とは、環境を整えることです。子どもが主体的に遊び込める環境を整えること。子どもが自ら感じ、考え、想像し、工夫し、試すことを許し、それを保障する環境。そのためには子どもを観察することが必要なのです。その時その時の子どもの姿を観察し、表情を読み取り、言葉を拾い、感じていることを共有する。そこから「今のこの子達」をつかみ、保育者は押すところと引くところを見極めていくのです。
園行事はただのイベントではありません。遊園地のアトラクションでもありません。それは子どもの生活の一部であり、成長と発達の重要なステップでありバロメーターなのです。そのことを理解して年齢と発達に応じた目標や年間計画を立て、目の前の子どもの成長や興味の深度・進度に合わせて日々の生活と行事を組み立てていくのが、保育園の、そして保育者の仕事なのです。
今回の林のお店やさんごっこは、冬の自然物に子供達が存分に触れ合って、味わい楽しみながら展開していきました。集めた木の実などを使って子供が自発的に始めた作品作りがやがてお店やさんに発展し、だからこそお店やさんを開くために必要なものを子どもが自ら考え、提案し、話し合って進めることができました。担任はよく子どもの姿を観察しながら環境を設定し、提案や見守りを適切なバランスで進めてくれました。子ども達は生き生きと輝いていました。充実した素晴らしい時間だったと思います。
ごっこ遊びの大切さは以前にも書きましたが、保育は本当に奥が深くて楽しい仕事です。
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お店やさんが終わってシェアリングの時間。ある男の子が言いました。
「お金がたまっていくのが嬉しかった!」
なるほど、そっか〜!と、大人はみんな思わず笑ってしまいました。
そう言えばさっきお店やさんの真っ最中に、お菓子屋さんに群がるお客を前にして店員の女の子達が興奮気味に話していました。
「大人気!みんなお菓子が好きなんだね!」
「めちゃくちゃ売り切れそう!!」
お店やさんの醍醐味を、子どもはまさに感じ取っていたのです。作ったものが売れる。そしてお金が貯まる。それはまさに商売の醍醐味でしょう。それがまた次のモチベーションに繋がり、新たな発想や行動を生み出していくのだと思います。これらの言葉から、今回のお店やさんごっこが子供の主体的な活動になっていたのだなということを実感することができました。
約1ヶ月半にわたって行われた、楽しく充実した4歳の「林のお店やさん」でした。
おしまい。